3月11日に発生した東北太平洋沖地震は全国各地に大きな被害をもたらした。この震災で亡くなられた方、被災された方に心よりお見舞いとお悔やみを申し上げる。

 今回の震災を受けて全国・世界各地から様々な団体が支援を行っているが、当法人の前沢理事長が理事長をつとめる日本プライマリ・ケア連合学会も支援を行っている。一連の活動を東日本大震災支援プロジェクトと命名し、「Primary Care for All」を合言葉とし、活動するチームを“Primary Care for All” Team略してPCATと読んでいる。

 この度5月29日から6月6日まで現地でPCATの活動に参加する機会をいただいたので、私が関わった活動内容と、活動を通してプライマリケアについて考えたことを報告する。
 なお、PCATの活動の全体は日本プライマリ・ケア連合学会のホームページをご覧いただきたい。

 プライマリケアという言葉は場面や状況によりニュアンスが多少異なるものの、よく用いられる1996年の米国国立科学アカデミーの定義では『primary careとは、患者の抱える問題の大部分に対処でき、かつ継続的なパートナーシップを築き、家族及び地域という枠組みの中で責任を持って診療する臨床医によって提供される、総合性と受診のしやすさを特徴とするヘルスケアサービスである』と説明されている。言い換えると、プライマリケアとはあらゆる健康上の問題、疾病に対し、総合的・継続的、そして全人的に対応する地域の保健医療福祉機能と考えられる(日本プライマリ・ケア連合学会ホームページより)。高度な専門的な医療が必要な場合はそれらのサービスを受けることができる環境を整える必要がある一方、日常的にはプライマリケアの質を上げることが求められていることが理解できると思う。

 PCATは活動を開始した時点から長期間にわたって支援することを明言してきた。その期間は2年から5年と、震災における医療の支援といえば救急というイメージが強い人にとっては意外に感じるものかもしれないが、震災後3ヶ月が経とうかとする時期に支援に行くとその意味が理解できた。
 震災直後はDMATと呼ばれる救護チームが全国から駆けつけ、いわゆる「急性期の医療」を展開した。しかし、数週間経った被災地のニーズは、長引く避難所生活による健康状態・栄養状態の悪化、精神的な問題、ダニ・カビ・蚊などをはじめとする公衆衛生の問題、介護を要する避難者への対応など、いずれも救命救急を念頭に置いたチームより、プライマリケアに関わるチームの方が問題解決しやすいテーマであった。

 実際に私が関わった内容は、ショートステイベースと呼ばれる避難所の一つだった。このショートステイベースとは石巻圏において医療・社会的理由で一般の避難所で生活することが困難、あるいは隔離することが望ましい避難者が一時的に入所する避難所である。もともとは、例えばインフルエンザなどの感染症患者で入院するレベルではないものの、大勢の避難者がいる一般の避難所にいると感染を拡大させるおそれがある、というような時に一時的に移動してもらう場所を提供するところから始まった。この他に、最近は病院に入院中で避難所に直接退院するのに不安がある方も入所しており、石巻圏の病院と避難所の隙間を埋めるような役割を担っている。当初は全国各地から駆けつけた救護チームが半日や1日交代で運営していたが、方針が一定しないことが問題となり、継続した対応ができるPCATが担当することとなった。
 PCATのメンバーのほとんどは本業があるため1〜2週間の支援がほとんどだが、少しでも継続性を高めるため長期間滞在できる人を優先して派遣している。

 実際に求められる能力は医学的な部分では外来診療レベルのマネジメントであるが、それに加えて、この避難所を退所しても自宅がない人がどのように生活していくかの社会的な支援を整える、必要があれば精神的なケアの介入のタイミングを見極める、被災地の全体の動きを把握して地元の動きを邪魔しないようにする、といったあたりが挙げられる。
 さらには、医師だけ、看護師だけ、薬剤師だけ、栄養士だけでは解決できない問題が慢性期には増えてくるため、多職種連携が必須である。また、支援に入る時点から支援が不要になる時期にどうやって地元に引き渡していくかという長期的な視点、地元が長期にわたって安定してサービスを提供するための医療・福祉のリソースの分析、といった観点も求められる。

 これらは、災害に関係なく地域でプライマリケアの実践そのものである。特に「被災地の全体の動きを把握して地元の動きを邪魔しないようにする」のが重要である。ともすると、被災地の支援は、被災地が「必要としていること」ではなく被災地に支援者が「支援したいこと」をやってしまいがちである。
 被災者が自分たちで解決できることを支援者がすることで支援者への依存体質を作ったり、被災地や被災者を対象に調査をして問題点を発掘するもそのフォローはせずに立ち去ったり、という事例を現地で耳にした。
 医療従事者の中には「自分がやりたい医療=患者・住民が求めている医療」と思いこむ風潮があるが、プライマリケアを実践するには「患者・住民が求めている医療」に自分を合わせるのも重要な視点である。このことを再認識させられた被災地支援であった。

 慢性期に入った被災地での支援はプライマリケアの実践という考え方は、その地域がどの程度被災したかにもよるが、もともとプライマリケアが充実している地域ほど回復が早くなる可能性が高い、ということでもある。
 PCATの活動も、被災地の関係者と頻繁に会ってニーズを確認することで現地に必要な支援を継続して提供することが可能となっている。自治体や地域の人口の規模にもよるだろうが、普段から「顔が見える関係」になっておくのは重要であろう。そして、全国各地でそれぞれが自分たちの地域にあった医療・保健・福祉の体制を構築しておくことが日常のプライマリケアの充実になると同時に災害時の備えになると考える。

参考
日本プライマリ・ケア連合学会ホームページ
http://www.primary-care.or.jp/

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